今こそ脱プラ!これからの循環型社会,第3回「繰り返し使う」報告

今こそ脱プラ!これからの循環型社会,第3回「繰り返し使う」報告
日 時:平成30年11月10日(土)13時30分から17時
訪問先:(株)吉川商店(京都市伏見区下鳥羽城ノ越町)
講 師:吉川康彦さん(びんリユース推進全国協議会副代表。(株)吉川商店代表取締役)

■今回は洗びん工場を訪問

「今こそ脱プラ!これからの循環型社会,第3回繰り返し使う」は,京都市伏見区下鳥羽の(株)吉川商店を訪問しました。同社は使用済みガラスびん(リユースびん)を回収し,洗浄して飲料メーカーに販売している,いわゆる「びん商」さんです。

集合場所は京都駅八条口アバンティ前。12時50分に集合し,観光バスの専用発着場まで移動。貸切バスに乗り込み13時過ぎに出発。今回の参加者は直接現地に向かった人も含めて36名(他スタッフ4名)。バスは約25分で目的地に着きました。国道1号線に面した吉川商店に着き,バスを降りると本日の講師の吉川康彦さんが迎えてくださいました。吉川さんは,吉川商店の代表取締役だけでなく,びんリユース推進全国協議会の副代表もされています。

訪問日は営業日のため工場内は操業中。トラックで次々とびんが工場に運び込まれ,洗びん機に向かうラインに乗り,洗浄後,傷のチェックやラベルの剥離を経て,種類ごとにストックされる工程を見学しました。他,工場内で使う水の処理や,太陽光発電機の設置などについてお話しを伺った後,工場内の会議室に移動し,リユースびんの状況などについて詳しく説明を聞きました。


■吉川さんのお話し

《吉川商店について》

(株)吉川商店は,昭和27年(1952年)大阪市住吉区で創業しました。創業当時はケチャップを製造していました。ところが作ったケチャップを入れる容器がありませんでした。ガラス容器は貴重でなかなか手に入らなかったため,ケチャップを作りつつ,容器も回収していました。
昭和35年(1960年)頃から日本酒の需要が伸び,昭和37年(1962年)に伏見の酒蔵に近い,現在の伏見区下鳥羽に移転しました。この工場で現在一升びんが50万本ほどあり,他の2工場と合わせて200万本程度の一升びんがあります。吉川商店では1日に4万〜5万本ほど仕入れています。トラックは7〜8台入ってきます。日本全体で流通している一升びんが1憶3千万本ほどですので,20本に1本を扱っていることになります。ただ,これでもピーク時と比べて10分の1になっています。
販売先は関西が7~8割。東京には酒蔵はあまりありませんが多くの空びんが発生します。集まったびんは東北や九州に配送されます。12月の忘年会シーズンを控え,11月が一番忙しい時期です。逆に1月,8月は仕事が減り,最盛期の半分以下になります。伏見の酒蔵や滋賀,三重の地酒メーカーにもびんを売っています。九州にもフェリーを利用して配送しています。

《45年使っている洗びん機》

当初従業員は50人ほどいましたが,現在は半分ほどになっています。一時はびんを売っても収入にならない時もありました。洗びん機は45年使っています。すでにメーカーは廃業しましたのでメンテナンスは自社でやっています。最近の機械は部品点数が少なくメンテナンスしやすいのですが,従来の機械は電気代が少なくて済みます。万一故障しても,自社で対応しているため数日で修理できます。ただし最近のラベルは剥がしにくく,最終的には手作業で剥がしています。
また,一升びんは形が統一されているため,機械で処理しやすいのですが,小さなびんはリユースびんであっても多くの種類があり手作業が多くなります。

《びんの洗浄で用いた水の処理》

びんの洗浄には濃度2%の苛性ソーダ(アルカリ性)を用いています。浄化の前に中和のため,希硫酸を用います。1日に150〜200トン(25メートルプールの3〜4分の1)の水を使っています。びんを洗った後の水の汚れはBOD(生物化学的酸素要求量Biochemical oxygen demand)45ppm程度です。これを25ppm以下に浄化して,農水路に放流する許可を得ています。
BOD25ppm以下に浄化するのは,大変な作業ではありません。例えば染色に用いた水などは数千ppmほどになります。水の再使用はしていません。十分な量の水を汲みあげることができるからです。井戸は50メートルと25メートルの2本があり,鉄分の少ない25メートルの井戸の水を優先して使っています。京都市が抜き打ちで検査に来ますが,問題が発生したことはありません。

《リユースびんの状況》

現在の日本国内の容器全体の年間流通量は約680億本。一人あたり560本になります。ただしこのうちのリユースびんは23億本ほどで全体の3.4%に過ぎません。
飲料・酒造メーカーは,小売,問屋,びん商からびんを買い取りますが,現在びんが足らず,取り合いになっています。これは容器包装リサイクル法のもと,市町村がガラスびんを回収し,リユースできるびんを回収しても,リユースルートに乗せずに割ってしまうためです。
ビールびんは1本5円のデポジットが付いていますので,固定価格です。一升びんは1本あたり5~10円で取引されています。これはデポジットではなく,容器としての価値であり相場で価格が変動します。
一升びんは平均して2.5回程度しか再使用されません。ビールびんはおそらく10~20回ほど使われると思います。牛乳びんもかなりの回数使われます。サイダーのびんのような自社所有のびんは50回ほど使われる場合もあると思われます。
びんを入れるプラスチック製の箱をP箱(ピーばこ)と呼びます。酒類流通企業ごとに異なる箱を作っていて,色によって見分けがつきます。P箱はびんのリユースに不可欠です。ところが一度で使い捨てにされたり,園芸用に転用する人もいて,戻ってこないことが多々あります。
びんも軽量化が進んでいます。一升びんもかつては1本1,100グラム以上ありましたが,今では950グラムになっています。ビールびんは共通です。

《全国のびん商をめぐる状況》

昭和36年(1961年)当時の資料を見ると,当時の大学卒初任給が1万5千円程度でしたが,ガラスびん50~60ケースがそれに相当する価格で売れました。空の一升びんを3本持っていくと,中身の入った醤油びん1本と交換してくれたという話も聞きました。当時それほどガラスびんの価値があり,大切に扱われ,繰り返し何度も使用されました。
全国のびん商は,昭和60年(1985年)当時,約1,000社以上ありましたが,現在は417社になっています(平成29年6月現在)。東京,大阪,広島,東北,九州,新潟,そして伏見に分布して,うち約30社が洗びんを行なっています。戦後起業した会社が多く,もとは樽や木箱を作っていた会社や,小売酒販店の副業などルーツは様々です。
東京23特別区では,地元のびん商にペットボトルなどの資源回収を委託しています。そのため東京ではびん商が他地域に比べて多く残っています。

《リユースびんとガラスリサイクル,双方の高いハードル》

容器包装リサイクル法では,自社で使った容器を自主回収した場合(同等の容器でも可),再商品化義務(リサイクルのための委託金支払い)が免除されます。ただし,免除の目安は「90%程度」です。リユースびんの回収率は,平成10年(1998年)は平均で91.3%ありましたが,近年低落傾向が続き,平成28年(2016年)には74.5%まで下がりました。
日本では近年びんの種類が増え,新びんの製造現場では1日単位で金型交換をしています。そのうえ色の基準も厳しく,わずかな違いでも不良品扱いになります。色替えといって,以前の作業で使った違う色の原料を,炉から完全に排除する必要があります。
作業時間のロスだけでなく,原料のロスにもつながります。さらには市中回収(ポストコンシューマーリサイクル)したびんのカレットを,新びんの製造に用いようとしても,こういった製造基準の厳しさが高いハードルになっています。

《環境負荷が低く,税金に頼らないリユースびん》

新びんを作るのと比べて,リユースびんの使用は環境負荷を格段に低減できます。新びんを1トン作ろうとすると,約1トンのCOが排出されますが,リユースびんを用いて,移送距離15〜30kmの条件であれば,新びんを用いる場合と比べて12.5%程度のCO排出量で済みます。500kmの移送条件でも新びんを用いる場合と比べて24%程度です。ただしこれはトラックに乗せて全距離走った場合であり,九州のように輸送途中にフェリーを用いると,16〜17%程度で済むと思われます。
リユースびんを用いると,新びんを用いる場合と比べて,80〜90%近く環境負荷を下げることができるわけです。他のワンウェイ容器と比べても,環境負荷が低いことがこれまでのLCA(ライフサイクルアセスメントLife Cycle Assessment)研究などでも示されています。
また弊社の場合,倉庫の屋根に太陽光発電機を設置し,工場で消費する電力の20%相当を発電しています。もし屋根全体のモジュールでカバーし発電した場合、試算では8割相当を発電でき、操業が休みとなる土日曜日の発電分が使えなくても58%を賄うことができるという試算を得ています。電力だけでなく熱源の検討も必要ですが、RE100(再生可能エネルギー100%)にもっとも近い容器はリユースびんではないでしょうか。
使用済の容器の大半を市町村が回収し,リサイクルにまわされるワンウェイ容器に対して,税金を使わず自立的な仕組みとして繰り返し使うことができるリユースびんは,「持続可能な社会」を考えるうえで重要な要素であり,ワンウェイ容器のリサイクルに今後も多く税金を使い続けるのか,考える必要があると思います。

以上

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