脱プラ、減プラ、キーパーソンインタビュー第1回 原田禎夫さん

京都市ごみ減量推進会議では、2019年度、脱使い捨てプラスチックや減プラスチックの分野でキーパーソンといえる方々に、影響や対策など最新の情報についてお尋ねし、ウェブ掲載によって多くの人に知ってもらう場を設けます。題して「脱プラ、減プラ、キーパーソンインタビュー」。すごくベタなタイトルですが、中身の濃いものにしていきたいと思います。

第1回の話し手は、大阪商業大学公共学部准教授、NPO法人プロジェクト保津川代表理事 原田禎夫さん。この分野で今一番ホットな情報を提供してくださると思います。
第1回のテーマは、脱プラスチックは新たな産業創造のチャンス。

話し手 大阪商業大学公共学部准教授 NPO法人プロジェクト保津川代表理事 原田禎夫さん
日 時:2019年5月28日13時30分から
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘
場 所:NPO法人プロジェクト保津川事務局(京都府亀岡市)

聞き手より「本日、特にお尋ねしたいこと」

近年、プラスチックによる海洋汚染や、中国をはじめ東南アジア諸国の廃プラ禁輸など、これまでのプラスチックの大量使用による問題が、地球上あるいは社会の様々なところで明らかになってきました。脱使い捨てプラスチックに向けて本腰を入れて取り組む国・地域がある一方、なかなか取組が進まない国・地域もあります。

本日は、大阪商業大学公共学部准教授の原田禎夫さんにお話を伺います。原田さんは川ごみや海ごみの調査にご自身奮闘される一方、研究者としてマスコミをはじめ多くの場で提言をされるだけでなく、多くの企業からも今後の事業活動の進め方など助言を求められています。

川ごみや海ごみの実態については、京都市ごみ減量推進会議(以下、本会議)主催のセミナー等でご報告いただいていますので、本日は「そこから先の話」をお尋ねしたいと思います。本日お尋ねしたい主な項目は、以下の4つです。

  1. プラスチック削減が、ビジネスになりつつある事例
  2. 乗り遅れるとどうなる
  3. プラスチック資源循環戦略は、脱プラ、減プラの後押しになるか
  4. 亀岡市が“プラスチックごみゼロ宣言”で得たもの

まず、これまでの本会議主催で原田禎夫さん登壇セミナーの報告記事

◆今こそ脱プラ!セミナー第4回(2018/12/2)原田禎夫先生報告・前半

今こそ脱プラ!セミナー第4回(12/2)原田禎夫先生報告・前半

◆今こそ脱プラ!セミナー第4回(2018/12/2)原田禎夫先生報告・後半

今こそ脱プラ!セミナー第4回(12/2)原田禎夫先生報告・後半

◆海ごみから考える私たちの暮らしとプラスチック 第1回開催報告(2017/12/9

海ごみから考える私たちの暮らしとプラスチック 第1回開催報告

インタビュー「脱プラスチックは新たな産業創造のチャンス」

聞き手

本日はお時間をとっていただき、ありがとうございます。まず、プラスチック削減が、ビジネスになりつつある事例を、ご紹介いただけますか。

原田さん

国内企業と比べて、外資系企業の意識の高さを感じる。例えばコカ・コーラ社は自社が販売した相当の空き容器を回収しようとしている。ベルノ・リカール、シーバスリーガルなどは、プラスチックゼロを目標に掲げて、できるところから始めている。取引先を含めて、マドラーを間伐材で作ったものに変えるなど積極的にアプローチしている。日本の企業は社員向け研修で講演しても「よいお話を聞かせていただいた」で終わりになることが多い。外資系企業では経営者から「今日の話を受けて、このような取組をしようと思うがどうか」といったレスポンスがある。しかも継続して提案や質問がくる。それだけでも本気で取り組もうとしているかどうかわかる。

外資系企業の経営幹部は視点がグローバル。日本の企業は短期的な影響ばかり言う。この違いはどこからくるのか。外資系ホテルの例で、売上、社員研修、顧客満足度が並列の評価指標になっている。日本の企業は、「売上、その他」で売上が指標として絶対的な位置づけになっている。人事評価の対象に環境対策があり、自分をどれだけ成長させることができたかも評価の対象になる。

「売上、その他」といった指標では、経済がいくら成長しても、中身が伴わない。プラごみ対策はコンプライアンス(法令順守)ではない。そもそも法令で「プラごみ対策」が求められているのではない。コンプライアンスといった受け身の考えでいれば取り残されてしまう。今ものすごく早いペースで市場が動いている。マーケットや社会が動いている。うだうだしている企業からは、投資家や年金基金が引き上げてしまう。銀行の融資も受けられない。長期的な収益を考えればどちらが将来に続く道か。

最近布製品が注目され売上が伸びている。石油製品が売れても、地域外にお金が出ていくだけの話だが、布製品というのは、もともとほとんどの地域に、それを作る地場産業があった。脱プラは地域の産業の再興や、新しい産業を興すきっかけになる。脱プラとは新たな産業創造であり、産業政策そのものだ。

「絶滅集落」などといった言葉があるが、日本の地方がダメになったのは、1960年代以降のエネルギー革命のためである。石油消費中心の社会になり、地方にお金が入らなくなった。脱プラを進めることは、第3次エネルギー革命でもあり、日本の地方にとって大きなチャンスになる。

聞き手

今のお話で「乗り遅れるとどうなる」にもふれていただきましたね。では、続いて「プラスチック資源循環戦略は、脱プラ、減プラの後押しになるか」についてお尋ねします。

原田さん

不十分な点はいろいろ感じるが、大事なのは決めておしまいではない。毎年見直していくことが大事。関係者の中で、不十分なところはわかっている。非難するよりいい方に変えていく、プレッシャーをかける、行政の政策推進側の中で、一所懸命な人はプレッシャーもほしがっている。行き場をなくした廃プラの焼却もあくまで緊急的な対応として、焼却処分場を作らず、減らしていく。複数の市で1つにしていくことも進めるべき。

焼却により排出されるCOを貯蔵する技術もあるが、プラスチックだけでなく生ごみを含めた包括的な資源循環を考えるべきで、だからヨーロッパ諸国はサーキュラー・エコノミー(Circular Economy)を実現しようとしている。サーキュラー・エコノミーはこれまでよく耳にした「循環型社会」とは違う。一部の資源の活用ではなく、原材料への依存を最大限減らし、新たな価値創造の中で温暖化対策も考えるべき。

ヨーロッパには、2030年までに使い捨てプラスチックを廃止するという目標を掲げている国がある。もちろん実現には難しい面もある。ライフスタイルの転換等国は先導できない面もある。先進的な都市が先行して推進し、国がそれを後押しするようになればよい。

聞き手

「先進的な都市」という話が出ましたので、亀岡市が昨年12月の“プラスチックごみゼロ宣言”で得たものについて、お伺いします。

原田さん

様々な企業がレジ袋の代替品をはじめ、使い捨てプラスチックの削減につながる提案を市役所や市内の流通企業に持ってきている。取材や視察も各所から申し込みがあり、亀岡市には情報が集ってきている。取材は市内のユニークな取組をしている店にもきている。例えば、「婦人の友」という雑誌が亀岡市内のケーキ屋さんを取材に来た。そこは女性パティシエがフランスまで修行をしにいった本格的な店だが、海外経験からレジ袋については、「プラごみゼロ宣言」の前から減らしたいと思っていた。お客さんに「レジ袋要りますか」ではなく、「このままでいいですか」という問い方に変えるだけで、お客さんのレジ袋辞退率は格段に高くなるという。それだけでなく、最近ではケーキを持参容器で購入することができるようにした。昔あったようなお豆腐さんに鍋を持って買いに行ったのと違い、お客さんたちもそれぞれおしゃれな容器を持ってくる。そこに新たな文化が生まれる。

すると環境やごみ問題だけでなく、新しい感性、感覚の人たちも集まってくる。若いアーティストが集まり、亀岡ではパラグライダースポーツが盛んだが、これは一定年数が経つと安全のため新しいものに替えないといけない。廃棄したパラグライダーの素材は、別の用途ではまだまだ使える。使用済みパラグライダーを使ったFLYBAGプロジェクトや、Plastic smartかめおか100人会議では、デザイナーの奥村昭夫さんにも協力をいただくことになっている。

プロジェクト保津川のイベントで、河川清掃の後、野点で茶を立て、弁当を出している。参加費12,000円出しても参加してくれる人たちがいて、いつも全国からの参加者ですぐに定員になる。弁当箱も使い捨てでないものにしたいと思っていた。各家庭に重箱がある。重箱は正月ぐらいにしか使わない、しかも規格化されている。これをスタッフが家庭から持ち寄り活用した。しかも風呂敷で包めばすごくおしゃれで高級感を出すことができた。

違う価値観を示すことが大切。やせがまんではない。こっちの方が楽。楽しいという雰囲気をつくる。「プラごみゼロ宣言」は亀岡市の価値を高めるよいツールになっている。

市内の文具さんでレジ袋を紙製袋に変更する店がある。それは児童たちの環境意識がここ数年で大きく向上していて、それが後押しになったという。学校によって濃淡はあるが、熱心に環境教育に取り組む学校や先生が増えている。特に「プラごみゼロ宣言」の後は、どういうことか知りたいという思いもあり、私へのゲスト講師の依頼も増えている。もちろん単発より年間を通じた環境教育プログラムを組んでいる学校の方が学習効果は高いが、単発での依頼であっても、次また次とゲスト講師の依頼がくる場合がある。そこで子どもたちが「自分たちにできることは何だろう」と考え、できる行動をする。それがお店の人に伝わり、お店の人たちも考えできる行動をとる。そうやってまちが変わろうとしている。

大手の店舗でも、例えばユニクロがプラスチック削減の取組をしようとしている。東京の旗艦店と同じ取組を亀岡店で実施するという。

民間の取組だけでなく、亀岡市は、環境省が進める地域循環共生圏事業に採択された。全国20数か所が採択されたが、うち10団体には環境省から人と金が出ることになっている。その10団体のうちの1つに亀岡市が選ばれた。このことも視察の拡大につながっている。視察があれば相手側の情報も入るし、交流も生まれる。市内でも様々な取組が生まれるとともに、外から人やお金が入りつつある。これも先行者として利益と考えている。

聞き手

ありがとうございました。今日のお話で、「使い捨てプラスチックの削減は、新たな産業創造のきっかけとして考えるべきこと」、「先行者としての亀岡市に、多くの情報や経験が生まれ、蓄積されていること」などがわかりました。まだまだお尋ねしたいことがありますが、ここまでにさせていただきます。

本日は長時間ありがとうございました。

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