脱プラ、減プラ、キーパーソンインタビュー第2回 小島理沙さん

消費者の購買行動を変える情報提供の大切さ。「減装ショッピング」とその後

話し手 京都経済短期大学准教授 NPO法人ごみじゃぱん前事務局長 小島理沙さん
日 時:2019年7月10日10時30分から
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘
場 所:京都経済短期大学小島研究室(京都市西京区)

◆消費者の購買行動を変える情報提供の大切さ

・ごみじゃぱんの事務局長として活躍

今回登場いただく京都経済短期大学准教授小島理沙先生は、2017年より京都経済短期大学の准教授に就任され、現在神戸大学経済学研究科特命講師と兼任されています。2016年12月まで、神戸大学内に事務局を置くNPO法人ごみじゃぱんの事務局長を、2006年の立ち上げから2016年12月まで務められました。ごみじゃぱんの特徴ある活動の一つに「減装商品」「減装ショッピング」があります。
「消費者にごみを減らすための適切な情報を提供すれば消費行動が変わり、ごみが少ない商品選択を行ってもらえる」との仮説を実証すべく、同じカテゴリーの中で、容器包装の使用が少ない商品(減装商品)を明らかにし、消費者に選んでもらうための手法が「減装ショッピング」です。

・「減装商品」について

減装商品を認定するために、飲料、調味料、パン、菓子などの食品やシャンプー、洗剤、といったスーパーで販売されている商品を、見つけられる限り購入します。そのうえで中身と容器包装の重さを計測します。例えばチョコレートでも、板チョコ(ソリッドチョコ)をはじめ、シェルチョコやパンワークチョコなど、幾つかの種類があります。それらを種類ごとに細分します。
中身は学生たちと分担して食べます。小島さんが1人で担当すると大変なことになります。商品カテゴリーごとに、食べた後に残る容器や包装の重さを測り、中身1グラムあたりの容器や包装の重量を計算します。数値が小さい順に、つまり中身あたりに使用されている容器包装が少ない上位3割程度を「推奨商品」として認定します。一度認定しても、商品は次々と衣替えするので、これまでに推奨した商品はのべ約3,000点を超えるとのことです。

・「減装ショッピング」

「減装商品」として推奨しても、どれが、「減装商品」なのかわからなければ、選んでもらえません。実際に商品が置かれている店舗の商品棚に「減装商品」のロゴを貼り、どの商品が「減装商品」かわかるようにします。商品棚の近くに「減装商品」の意味を記したカードも掲示します。これらの作業を主に神戸大学の学生さんたちが、献身的かつ自身の研究課題として実施していました。
2007年にコープこうべの1店舗から始まり、2010年までダイエーやイオンの店舗を加え神戸市内で実験を続けられました。2008年には「減装商品」1,474点を認定し、神戸市内4店舗で店頭掲示の実験をし、かつ店舗周辺では「減装ショッピング」を知ってもらうための市民向け学習会も実施しました。その結果、「減装商品」は中身が同じ他の商品と比べて、食品で8.5%、日用品・生活雑貨では14.4%も売上が伸びたとのことです。

◆小島理沙さんへのインタビュー

以下、小島先生には減装商品、減装ショッピングの活動の現在や、特にプラスチック系容器包装の削減に向けた課題や留意点について尋ねました。

・最近のごみじゃぱんの活動

小島「ごみじゃぱんの活動としては、今年6月も国内大手の環境・リサイクル企業の大栄環境グループなどが兵庫県三木市で開催した第5回三木かんきょうフェスティバルにブース出展しました。そこでの主体は京都経済短期大学の学生たちで、学生たちが子どもたちと遊びながら持続可能な社会について学び、知る機会をどのように設けるか、時間をかけて考えていました。学生たち自身も成長しています。

京都市内では地元西京区のイベントでのリユース食器の活用など、学生たちに学ぶだけでなく体験を通じて、環境の大切さを感じてもらっています。学園祭でもリユース食器を導入するよう働きかけています。地元では、西京エコまちステーション(京都市のごみ減量活動支援を目的とした環境拠点)の協力を得て活動を進めています。

・減装ショッピングと減装商品のその後

減装ショッピングについては、大手の製パンメーカー山崎製パンが、一部の商品包装に「減装商品」のロゴをプリプリントしてくれるなどの成果も出ています。ロイヤルバターロールも該当商品ですが、出荷工場によってロゴが入る、入らないがあるようで、店頭で見かけることは少ないかもしれません。

減装商品ついて、現在店頭でロゴを貼る活動はしていません。もともと期間を定めた実験で一定の成果を出すことができました。減装商品の推奨と店頭でのロゴの掲示により、消費者に環境配慮を意識した購買行動を促す効果が確認できました。具体的な成果を数字で示せたことで、容器包装の削減について関心を高めることができたと思います。ごみじゃぱんの活動への問合せも増えました。

このことは大きな成果でしたが、店頭での扱い商品は短期間で変わるため、減装商品を選ぶ作業も、店頭のロゴマークを貼り替える作業にも大きな労力が必要です。キャンペーン期間のように大々的に推奨作業やPR活動はしませんが、継続的に容器包装の重量データの計測は少しずつですが続けています。」

・プラスチック削減の課題

聞き手「今、プラスチックごみを減らすことが大きな社会課題になっています。削減を進めるうえでの課題として、どのようなことをあげられますか。」

小島「プラスチック製容器包装はここ十数年でコンパクトになってきました。今後さらにプラスチックごみを減らすうえで素材代替や様々なことが考えられます。生分解性プラスチックも現在のプラスチック全体の使用量を考えると全ての代替にはなりません。プラスチックの利便性と折り合いをどうつけるか悩ましいところです。プラスチックは安全性や利便性など大きなメリットを持っています。たいへん便利なもので、私たちの暮らしや社会を豊かにしてくれました。実際に私たちのまわりには、例えばパソコンにも、家具や電化製品にも多くのプラスチックが使われています。これら使い捨てではない耐久消費財としてのプラスチックもあり、『脱プラ』ではなく、『脱使い捨てプラ』と対象を絞ることも大事ですが、それすら難しく、実際には『減プラ』でしょうか。『減プラ』だとインパクトは弱くなりますね。

飲料容器を例にしても、かつて、びん(リターナブルタイプ)から缶、PETボトルへと主役が移ってきたのは消費者の選択でもありました。「消費者の選択」、つまり需要サイドをどう変えるかが、容器包装、特にプラスチックを減らせるか、減らせないかの大事なポイントになると思います。

聞き手「おっしゃる通り、プラスチックはとても便利なもので、プラスチックを減らしていくうえでの基本として、どのようなことを示していただけますか。

小島「まずは、ごみを出ないようにする。出たものは確実に回収し、資源やエネルギーとして活用する、基本的なことですが大切なことです。そういった配慮をしようとがんばっている企業や個人を応援することが大切で、感情的にならず、現実を見た世論形成が大切です。」

聞き手「そのためには消費者への情報提供が大切で、具体的活動として減装ショッピングを推進されていました。減装ショッピングに続く活動として、どのようなことを考えていらっしゃいますか」

小島「今のところ、減装ショッピングに続く新しい活動の予定はありません。ただ、減装ショッピングの活動を通じて、包装材メーカーや食品メーカーとのつながりを得ることができました。京都経済短大の学生たちと共に、様々な包装削減の提案ができる関係を通して、包装材の削減への寄与は続けています。」

・省包装と容器の肉薄化と静脈産業との関わり

聞き手「商品の保持力が落ちないことを前提として、容器の肉厚を薄くしたり、包装をよりコンパクトにできたとします。そのことは、原材料の削減や輸送効率の向上、冷蔵・保温効率の向上などにつながると思います。動脈側からみればいいことばかりのようですが、静脈の立場で考えるとそうともいえません。容器1個あたりの重量が減ることは、より多くの個数を集めないと従来と同じ利益が得られないことになります。見方を変えれば、ある面のメリットが他方でデメリットになることがあります。このあたりについてどのようにお考えですか。」

小島「静脈サイドから重量を減らしてくれるな、という声は、あるかもしれませんが、一方、大手の環境リサイクル企業は量より質を求めています。軽量化で回収量が少なくなることは気にしていないようです。むしろ回収頻度や回収効率が向上するならその方がよいと考えているようです。
例えば、PETボトルからPETボトルを再生する技術も確立され、再生PETで作られたPETボトルも増えています。PET to PETのためには、高品位(汚れや異物混入の少ない)の回収品が必要になります。質の高い回収PETボトルは入札価格も上がっています。今後リサイクル企業は、より品位の高い回収品を求めることと思います。」

 

・学生たちも変わってきた

聞き手「ありがとうございます。使い捨てプラスチックを減らすことが大きな社会課題になっています。「需要サイドを変える」という言葉がありました。消費者の購買行動を変えるうえで、「減装商品」のような具体的な情報提供が重要かつ効果があることを教えていただきました。一方、実際の運営等でのたいへんさもお伝えいただきました。今後の使い捨てプラスチック削減に向けた示唆をいただけたと思います。ありがとうございました。

小島「学生たちのマイボトル持参も増えてきたように感じています。10年20年前は、なかなか理解されず苦労もありました。その頃より少しメッセージが伝わりやすい状況が生まれていると思います。

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