脱プラ、減プラ、キーパーソンインタビュー第6回 高田秀重さん

プラスチックとの付き合い方を根本から考え直そう

話し手 東京農工大学 農学部 環境資源科学科教授 高田秀重さん
日 時:2019年8月22日(木)14時から
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘
場 所:〒183-8509 東京都府中市幸町3-5-8 東京農工大学府中キャンパス 高田研究室 https://www.tuat.ac.jp/

東京農工大学教授 高田秀重さんへのインタビュー

海洋ごみ、プラごみ問題に第一線でご活躍

今回は東京農工大学の高田秀重教授からお話を伺います。高田先生は、海ごみ、特にマイクロプラスチック問題に関する研究調査で多くの実績をあげてらっしゃいます。そのため、この問題に関心のある市民グループや企業等から学習会講師として引っ張りだこで、全国各地で催されるセミナーや学習会に呼ばれていらっしゃいます。京都市ごみ減主催行事でも、2018年1月28日に京都まで来ていただき、講演していただきました。(その時の報告記事https://kyoto-leaftea.net/informations/informations-1395/)。
講演活動だけでなく、国や中央官庁等の審議会にも委員として参加されています。そういった場でペットボトル茶や使い捨てカップが委員に出されることが多々あるのですが、高田先生は「次回からは、これはやめましょう」と意見をおっしゃるなど、研究成果だけでなく、日ごろの言動でも一貫した姿勢を持ってらっしゃる方です。

 

今回お尋ねしたいこと

今回、東京都府中市にある東京農工大学府中キャンパスの高田先生の研究室にお訪ねして、主に以下のお話を伺いしました。
・「農工大学プラスチック削減5Rキャンパス」活動宣言についてhttps://www.tuat.ac.jp/outline/executive/5rcampus/

・「プラスチック資源循環戦略」をはじめ、国の様々な政策への留意点
・産業界の対応
・プラスチックとの付き合い方

「農工大学プラスチック削減5Rキャンパス」活動宣言について

聞き手(堀)「今年(2019年)8月9日に、『農工大プラスチック削減5Rキャンパス活動宣言』を出されましたが、これはどのようなものですか」

高田「使い捨てプラスチックの削減と、新素材の創生等を含めた研究を学内あげて推進します。具体的取組として給水機を府中キャンパスと小金井キャンパスに、合わせて30台設置します。水筒やタンブラーに給水できるものです。自宅からマイボトル持参で通学する学生も多くいますが、夏の暑い時など帰宅するまでに空になり、学内で飲料を購入することが多いようです。学内飲料自販機の売上構成比の6割がミネラルウォーター類です。学内のプラごみ発生量と飲料自販機の利用を減らしたいとの思いで、給水機を各棟に1台設置します。」


聞き手
「各棟に1台というのは、すごいですね。」

高田「自販機は消費電力も大きく、設置台数そのものを減らしたいと思いますので、本当は各フロアに1台給水機を設置したいと思っています。ですが、一度にそこまでできませんでした。それでもベンダーに依頼して、学内自販機でのプラスチック容器入り商品の扱いはなくしてもらいます。

学内の生協でのレジ袋は、現状無料配布ですが10月告知で有料にします。これもいずれプラスチック製ではなく、紙袋に替えてもらい、有料紙袋にしていきます。

それと大学のノベリティグッズもプラスチック製以外のものに替えていきます。例えば大学名入りのボールペンも軸が木製のものなどに変更します。大学名入りのマイボトルも作成し、長く愛用してもらいたいと考えています。

聞き手「学内の反応は、どうでしたか。」

高田「給水機設置は学生からの提案によるもので、学生の中に意識をもった者も多くいると思います。今回の『活動宣言』の発表は8月でしたので、後期が始まってしばらく学生のための周知期間を設けます。本学の学長はプラスチックポリマー(高分子)の研究者ですが、使い捨てプラスチックの削減に理解が深く、今回の『活動宣言』の発表に至ることができました。
ただ、全教員が同じ思いかというと、多少の温度差はあります。当初『プラスチックフリー5Rキャンパス』で打ち出そうとしましたが、『研究資材も含めて、プラスチックに頼らざるを得ない面もある』という意見も出て、『プラスチック削減5Rキャンパス』になりました。」

海洋ごみ問題と使い捨てプラスチック削減策

聞き手「一昨年、京都で講演していただきましたが、その後の研究や調査でより状況は悪くなっているでしょうか」

高田「日本の周辺海域についていえば、年々ひどくなるというより、悪い状況がつづいています。そのなかで、日本海に限れば悪くなっています。東京湾などはかなり海底にプラスチックごみが溜まっているようです。プラスチックといっても比重が水と同程度か水より重いものもあるので、海に入るプラスチックごみが今後減っても、海底に溜まり続けていくことでしょう。
日本以外の国が対策を進めているなか、日本の対策の遅れが目立ってきています。例えば7月の大阪サミットで採択されたG20ブルー・オーシャン・ビジョンには、『2050年までに新たな海洋に流出するプラスチックをゼロにする』という目標が示されています。ですが、『プラスチックの使用量を減らす』とは書いていません。また、海に流れ出るプラスチックをゼロにするといっても、どうやってゼロにするか示していないのです。リサイクルも限界で、大量のプラごみを燃やすわけにもいかないでしょう。となれば、減らすしかないのですが、その文言を入れることへの抵抗があったようです。」

聞き手「日本の使い捨てプラスチック削減の取組についてどう思われますか」

高田「他の先進国が取り組んでいるプラスチック問題への対応と差が広がりつつあります。来年(2020)4月からレジ袋の有料化を国が主導して全国レベルで実施するといっていますが、これだって先進国どころか、アジア、アフリカ諸国にもすでに広がっていて、海外からは『なにを今さら強調して発表するの』という感じで受け取られたのではないでしょうか。
PETボトルの増え方もひどい。中身のかなりの割合がミネラルウォーターです。給水機が各所にあればPETボトルの利用を減らせます。最近ストローの削減を打ち出す外食チェーンが相次ぎ、話題になりましたが、タピオカのブームがストローの削減機運を吹き飛ばしたようです。そもそもTake outの食べ歩きから考え直さないといけません。鎌倉の観光地では食べ歩き禁止条例ができましたが、こういった取組を広めて、使い捨てそのものを見直す必要があると思います。文化の問題でもあります。
PETボトルでいうと、ミネラルウォーターの中にはヨーロッパやアメリカから遠路運ばれてくるものがあります。その空き容器をリサイクルして『地球にやさしい』ではないでしょう。環境問題を総合的にみていく必要があると思います。」

聞き手「プラスチック資源循環戦略は、対策として有効に機能するでしょうか。」

高田「2030年までに30%減と打ち出していますが、基準年を定めていません。このことについて私は国の審議会で何度も進言しました。基準年を定めれば、業界団体は業種ごとに目標値を定めないといけなくなります。そのため業界からの強い反対が出て、基準年の設定に至りませんでした。
ただし個別業種、個別企業の中には危機感をもち、勉強会の開催や研究を続けているところもあります。欧州では、プラスチックのリデュースやバイオプラスチック化を進めていて、この動きに乗り遅れると、特に海外取引の多い企業は、市場から淘汰されてしまいます。
例えば日本包装技術協会なども『プラスチック容器包装の削減等、いつまでも拒み続けられる問題ではない』との認識を持っています。プラスチック中心の容器包装、流通システムを変えていく必要があります。

高田先生の研究室で出していただいたお茶のポット。丸い球体に茶葉を入れることで、水出しができ、紙パックのごみも出ない。(LUPICIA京都店は寺町三条上ル)

バイオプラスチック、生分解性プラスチックとのつきあい方

聞き手「今お話しに出たバイオプラスチックは期待していいものでしょうか」

高田「時々勘違いしている人に出会いますが、バイオプラスチックといっても必ずしも自然界で分解するわけではありません。植物由来の原料が一部使われているということで、石油由来のプラスチックと全く同じものを作ることができます。何よりすべてのプラスチックをバイオプラスチックに変えることはできません。やはりリデュースが必要で、使用量を減らすことが大切です。
環境により負担をかけない素材の開発は工学部の役割。農学部はモノの使い方、まわし方、そして削減の仕方を考えていくことができます。

聞き手「その生分解性プラスチック普及の可能性はどうでしょうか」

高田「土中で分解する生分解性プラスチックでも、海水中で分解するとは限りません。生息する微生物が全く違います。最近は海水中で分解する生分解性プラスチックも開発されていますが、海面と海底では全く環境が違い、海面では分解しても海底に沈んだ場合分解するとは限りません。
生分解性プラスチックでも環境中に放置していいわけではなく、しっかり集めてゆっくり分解させる装置が必要だと思います。いずれにしても、過度な期待はよくありません。」

聞き手「バイオプラスチックを集めて、ゆっくり分解するとなると、生ごみも含めて社会の作り直しのようなことが必要ですね。」

高田「いろんなオプションの並列的な組み合わせが必要で、政府が音頭をとって進める必要があるでしょう。先進国は新しい社会モデルを作り、これから発展しようとする途上国に示す必要があります。」

聞き手「社会のグランドデザインですね。」

高田「日本は高性能焼却炉を途上国に輸出しようとしています。日本の失敗を広めるようなもので、一旦導入してしまうと、燃やすごみがますます多く必要になり、消費も加速させます。
まずは現在のプラスチックの大量消費から、リデュースをしっかり推進する必要があります。生ごみを焼却しても、水分を蒸発させるためにエネルギーを大量に使うようなものなので、生ごみも含めて、モノがしっかり循環する社会を構築する。食品用プラスチック容器などで、使用後の洗浄が難しいものは生分解性プラスチックを用いるなど、さまざまなオプションの並列的な取組が必要だと思います。

産業界の取組

聞き手「プラスチックの消費削減では、事業者の理解・協力が必須と思います。一方、大きなビジネスチャンスとも思いますが、企業から大学に相談などはありますか」

高田「生分解性プラスチックやバイオプラスチックの開発を進めている企業からの相談がきています。バイオプラフィルムなど、ある企業が最初に持ってきたものは破れやすく『これでは商品として難しいでしょう』と伝えました。熱心な企業が多いのですが、第2世代ポリスチレンと呼ばれるものは早く分解する触媒が添加されているものが多くあります。
プラスチックに石灰岩を混ぜた素材や、紙にプラスチックフィルムを貼付した素材など、『プラスチックだけで作った』ものより、たしかにプラスチックの使用量は減るのですが、資源問題としての対応にとどまり、環境中に出てからどうなるかといった視点がないものが多いと感じています。既に多く出回っている製品についていえば、プラスチック製の詰め替え袋もその一例です。」

日本のプラスチック海洋流出について

聞き手「話を海ごみに戻しますが、PETボトルのような割としっかりしたプラスチックからも、マイクロプラスチックは発生しているのでしょうか。」

高田「PETボトルの場合、フタとフィルムは別素材です。マイクロプラスチックが発生しやすいのはフタとフィルムで、これが問題です。
海岸に打ち上げられたPETボトルなどは、波の力でマイクロプラスチック化していると思いますが、路上など陸上でもごみとなった場合、踏みつぶされるなどさまざまな力がかかり、マイクロプラスチック化していると思われます。」

聞き手「2015年にジャムベックという研究者らのグループが、世界の国・地域の海洋流出プラスチック量の試算一覧を発表しています。この中で日本から流出しているプラスチックは少なく、日本の環境省もよくこのデータを引用していますが、実際はどうなのでしょうか。」

高田「日本のプラスチック海洋流出が少ないというのは、あくまで試算です。発生量の把握や廃棄物管理は比較的行き届いているとはいえ、その管理ルートに乗らないプラスチックごみがどれだけあるか、試算と実態が違うことはあり得ます。実際には海岸や川岸、路上に多くのプラスチックごみがあります。日本からの流出が少ないとは言えないのではないでしょうか。」

聞き手「そもそもプラスチック流出の多い国に、大量のプラごみを『輸出』しているのは日本ですしね。」

高田「上から目線ではなく、しっかりと自分たちの管理をしなければならないと思います。管理といえば飲料業界は回収率を上げるため、この20年間ほどがんばってきました。ですが、まだまだ環境中に空き缶、PETボトルの放置ごみがある状況です。」

プラスチック容器のデポジット、リユースについて

聞き手「放置容器対策でいえば、デポジットリファウンド(預り金)制度などは確実な回収に効果があるのではないでしょうか。」

高田「デポジットより、まず減らすことが大切です。デポジットは回収には効果があると思いますが、『今まで通り使ってよい』という誤解を生みかねないと思います。例えば『水』にしても、各地自治体水道局の努力で、水道水の品質、安全性はかなり改善され、おいしい水が供給されるようになりました。PETボトルで水を飲む文化そのものを変えていきたいです。」

聞き手「プラスチックボトルのリユースについては、どう思われますか」

高田「プラスチック食器やPETボトルのリユースにしても、いずれそれらの容器は劣化します。マイクロプラスチックだけでなく、プラスチックには添加剤が含まれ、使用するごとにこれが溶出します。飲食を通じた摂取について日本の消費者は危機感が薄いと思います。欧米の脱プラの動きは、健康面への影響も考慮して広まっているのです。」

聞き手「一般市民が生活の中で使用するプラスチックを、どこからどのように減らしていくか、アドバイスがありましたら教えてください。」

高田「『プラスチックフリー生活』という本があります。様々な事例が掲載されていますが、簡単な取組で、『ゼロ』とまではいかないまでも、3分の1程度に減らすことは可能です。私がこの本の解説をしていますので、差し上げましょう。」

聞き手「以前から欲しいと思っていた本です。ありがとうございます。」

高田「それと、先ほどのデポジット制度やリユース食器、リユースPETボトルなど完全に否定しているわけではありません。ごみを減らしていくという目的で、その中間的な取組としては有効だと思います。」

聞き手「そこがゴールではないということですね。」

高田「プラスチックはとても便利なものですが、これに頼り切った暮らしの見直しを通じて、プラスチックの使用を減らしていくことが大切です。」

聞き手「今日はたいへん長時間にわたり、様々な情報や視点、示唆をいただきました。ありがとうございました。」

以上

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