琵琶湖は映し鏡。三方よしの地域で生まれるグリーン経済
話し手:一般社団法人滋賀グリーン活動ネットワーク事務局長 辻 博子さん
日 時:2019年7月31日15時30分から
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘
場 所:滋賀グリーン活動ネットワーク事務局(大津市松本1丁目2-1 滋賀県大津合同庁舎6階)
https://www.shigagpn.gr.jp/
■滋賀グリーン活動ネットワーク辻 博子さんへのインタビュー
・滋賀グリーン活動ネットワークの事務局長として活躍
今回登場していただくのは、滋賀グリーン活動ネットワーク事務局長の辻博子さんです。辻さんは、2013年の滋賀県内でのレジ袋一斉有料化をはじめ、滋賀県で環境活動を実践する人たちの中で、知らない人がいないほど、意欲的に環境活動をリードしてきた人です。
滋賀グリーン活動ネットワークの前身にあたる滋賀グリーン購入ネットワークは、滋賀県内に環境に配慮した製品やサービスを普及することを目的に1999年に設立されました。辻さんは設立2年目から事務局スタッフとなり、2013年には同ネットワークの一般社団法人化を機に事務局長に就かれ、現在に至ります。
滋賀グリーン活動ネットワークの設立20周年にあたる2019年6月、同ネットワークは滋賀グリーン活動ネットワークに名称変更しました。「グリーン購入」に限らず、広く環境活動を実践・普及し、「滋賀から『グリーン経済』をつくる」を活動ビジョンに掲げています。会員数は取材時で正会員476。滋賀県を含め県内の全市町が参加しています。企業会員数は387。多くの企業が参加し、自発的かつ活発な活動が推進されています。
辻さん近景
・今回のインタビューで得たいこと
今回の取材では、グリーン購入の普及に努めてこられた辻さんの経験から、使い捨てプラスチックの削減に向けた活動のヒントを頂戴したいと思います。特に、企業との合意形成について多くのことが学べると期待しています。ネットワーク設立から長い年月が経ち、どの企業も担当者が幾たびか代替わりしていると思います。理念の継承や活動の継続は、京都市ごみ減量推進会議にとっても参考になるものが得られると思います。
◼滋賀県民の環境意識と琵琶湖
聞き手「今日はよろしくお願いします。滋賀グリーン購入ネットワーク時代から、滋賀県はすごく環境活動が熱心だと感じてきました。グリーン購入については滋賀県が率先して取り組まれ、そのことで全国のグリーン購入ネットワークの設立(1996年)や、グリーン購入法の制定(2000年)にも大きな影響を与えたと思います。まず、滋賀県の人たちや企業の環境意識の背景をおしえていただけますか。」
辻「滋賀県には琵琶湖があり、1970年代には、元祖グリーン購入運動とも言える「石けん運動」が起こった歴史もあります。琵琶湖を毎日見る人、見ない人様々ですが、意識のどこかで、自分たちが流した排水と琵琶湖が結びついています。それが県民の環境意識にひろく影響があったと思います。また、自発的に自社周辺の清掃活動をしている企業も多くあります。
「滋賀県は真ん中に琵琶湖があり、県内の交通の妨げになっている」と滋賀県民は感じていると思います。しかし他府県の方から「滋賀県は真ん中に琵琶湖があって、滋賀県の人は、みんな琵琶湖を囲み、琵琶湖を見つめながら生活している」と言われたことがありました。その時、そのように見れば、まさに琵琶湖が県内の人たちをつなぐ紐帯になっていることを改めて感じました。そして、実は、この言葉、堀さんから聞いたのですよ。」
聞き手「あ、そうでしたか。ずいぶんと昔の話ですね。」
琵琶湖テラスから見た琵琶湖
■みんなが主役 思いを紡ぎ、理念を継ぐもの
聞き手「さてさて、そんな高い環境意識が県民や県内企業にあったとしても、それを紡ぎ発展させる存在が必要です。前身の滋賀グリーン購入ネットワークはどのように参加企業や団体の自発性を引き出されたのでしょうか。」
辻「みんなが主役という姿勢を貫きました。事務局はあまり表に出ないようにしました。当初の滋賀グリーン購入ネットワーク事務局員は1人しかいませんでしたし、自分は環境の素人でした。事業を進めるにあたり、会員、特に役員(役員の多くは企業)に頼るしかありませんでした。2001年のグリーン購入法が施行された当時、これからグリーン購入を進めようという企業や自治体から、講師派遣の依頼が度々来ました。環境素人の自分には講師として出向く自信はありませんでしたので、役員にお願いし、交代で出講してもらいました。「滋賀グリーン購入ネットワーク(当時)として出講」するためには、自団体のこと、グリーン購入のことを理解していることが当然必要です。出講することは、役員の皆さんがこの団体・活動を「自分事」とする良き機会となったことは言うまでもありません。
現在の滋賀グリーン活動ネットワークでも「講師派遣事業」というものを行っています。大学や自治体等から企業講師の派遣依頼を受け、会員を派遣しています。これも、出講いただく会員に、滋賀グリーン活動ネットワークの一員であることを再認識していただく機会になっていると思います。」
聞き手「京都市ごみ減もですが、長く活動を続けていくと委員・役員さんの代替わりが発生すると思います。理念や活動趣旨の継承はどのようにされてきたでしょうか。」
辻「『みんなでつくる』が、この会の基本理念です。理事会や幹事会の座長は、役員の持ち回り制としています。原則シナリオなどは用意せず、それぞれの座長の個性で進行してもらっています。座長になった方は「自分事」として議題を捉えてくださいます。この雰囲気のなかで団体として大切にしてきた『みんなが主役』という運営の基本スタイルが理解され、継承されていったのではないかと思います。」
聞き手「役員会をはじめ、異なったセクターが集って議論をする場でのルールのようなものはありますか。」
辻「『他人が出した意見の批判はしない』ということと、『意見やアイデアは所属組織を代表したものでなくてよい』ということでしょうか。もちろん持ち帰らないと決められないことはあると思いますが、1つ1つの発言は個人の思いとして出してもらい、互いにそのことを理解しあっています。そのことが活発な議論につながっていると思います。また、事務局としては1つの会議で、できるだけ出席者全員が一度は発言するよう気配りしています。」
◼レジ袋県内一斉有料化の経験
聞き手「2013年4月に滋賀県では、県内のほとんどのスーパーマーケットでレジ袋の一斉有料化が実現しました。その実現まで紆余曲折あったと聞いています。差支えのない範囲でおしえていただけますか。」
辻「もともと滋賀県ではマイバッグ持参運動に熱心に取り組んできました。ただし、一定以上の成果が上がらず、『マイバッグ持参やグリーン購入に取り組む意義を具体的に消費者に届けるキャンペーンが必要だ』ということから、2006年度から4年間に亘り、滋賀県から滋賀グリーン購入ネットワークに大規模なキャンペーン事業が委託されました。このキャンペーンは、滋賀グリーン活動ネットワーク会員はもちろん、県内約30社の小売店、県内自治体・各種消費者団体等が参加し、協働・連携のもとに実施されたことにも意義があったと思います。
こうしたキャンペーン等をふまえて、参加団体の中でレジ袋について、無料で配布するより『ほしい人が別途お金を払ってもらえばいい』という共通認識が持てるようになっていきました。やがて、県内の主要スーパーにおいて、『県下一斉に有料化するなら、当社もレジ袋有料化を実施しますよ』という仮合意を得ることができました。そこで、レジ袋の無料配布中止を2010年4月から実施することで合意を取り、そのための準備を進めていました。ところが、県内に複数店舗をもつ有力スーパーさんが、この輪から離脱してしまったことから、『時期尚早だ。レジ袋有料化に参加しない店舗がある中では実施できない』とおっしゃるスーパーさんが他にも出てきて、2009年11月レジ袋有料化の一斉実施は一旦取りやめとなりました。そこまで積み上げてきたことが水の泡になってしまったような喪失感を味わうこととなり、非常に残念でした。
ところが数年後、『レジ袋一斉有料化に参加できない』と輪から離脱されていたスーパーさんが、自主的に本社の意向でレジ袋有料化を実施されることになりました。」
聞き手「大変でしたね。でもよかったですね。」
辻「『協同・連携』ということより、単独で走るタイプの企業さんもいらっしゃるのですね(笑)。ともあれ、このことをきっかけに、他の多くのスーパーさんから県内一斉レジ袋有料化の合意を得ることができ、2013年4月に県内の多くのスーパー・小売店での一斉有料化がようやく実現しました。無理に進めるのではなく、県内小売店の想いを組んで、同意を求めて、足並みをそろえてから踏み切ったことが滋賀県流だったと思います。」
聞き手「レジ袋有料化が実施されたことで、混乱や売上の減少等ありましたか。」
辻「やってみたら『よかった』という反応がほとんどです。もちろん小さなトラブルはあったようですが、すぐに理解してもらえました。県内のほとんどのスーパー・小売業が参加していることもあり、『レジ袋無料の店に行く』という人もほとんどなかったようです。有料化したことが『売上に影響した』という報告は受けていません。」
■企業は変わることができる
聞き手「この経験は、レジ袋以外の使い捨てプラスチックの削減にも活きてきますか」
辻「十分活かすことができると思います。ただしレジ袋有料化のように、地域ごとに異なるプロセスを経て実現するのではたいへん大きなエネルギーが必要です。ようやく国が来年(2020年)から全国でレジ袋有料化を実施する方針を発表しましたが、同じように、びんやボトルの規格統一、リユースやばら売りの一定の維持など方針を定めてほしいと思います。
小売事業者の中には、今の売り方が当たり前という意識があります。例えば「夜も寝ないで野菜の袋詰め作業をしている」という販売店の方は、「野菜は生で食べるものだから、袋に入っていないと、お客さんが気持ち悪がって買ってくれないから」とおっしゃっていました。企業の方の中には、日々の事業活動に懸命で将来の社会まで見えない人もいます。企業は消費者に「安い・簡単・便利」という側面を強調し、商品をより多く売ろうとします。そこで消費者の感性が必要になります。多少尖がって時に企業とぶつかることがあっても、将来を見据えて必要な提言ができる「賢い消費者」になること、企業とただ仲良くなるだけではなく、そうした意味での良い関係になることが必要です。消費者が不要な包装やオマケは「要りません」と断ることだけでも、企業に影響を与えることになると思います。
企業は製品を売りっぱなしではなく、最終的にごみになった後も回収やリサイクルで責任を持つことが必要だと思います。そのことで異なる企業ともタイアップする機会ができ、新たな産業も生まれます。作りっぱなし、売りっぱなしではいけません。」
聞き手「そこで消費者にも役割がありますね。」
辻「企業が動かないと大きな成果は出ません。しかし企業が変わるには、消費者の消費の変化が必要です。グリーン購入キャンペーンやエシカル消費のキャンペーンなど、消費者向け啓発を行うのも、企業に影響を与えたいためです。」
聞き手「脱使い捨てプラの分野で、企業が変わってきているという実感はありますか。」
辻「まだ、その実感はありません。でも変わっていけると感じています。産業は変わっていく必要があります。回収、処理できないのなら、自然に戻る素材を使ったり、回収できても、リサイクルが難しいものは、繰り返し使う仕組みをつくる必要があると考えます。
滋賀県には河川の清掃活動に取り組む団体が数多くありますが、プラごみは20年以上前から増えてきていて、問題になっていました。使い捨てプラスチックについては、何より発生抑制が必要だと思います。」
■琵琶湖は映し鏡
辻「琵琶湖には、私たちの行動が映し鏡のように反映します。滋賀県(近江)には「三方よし」の考えがあり、自分だけが利益を得ればよいのではなく、相手も社会も良くなるように心掛けないといけないという考えが根付いていると思います。昔から近江商人は、成功して財を築いたら出身地やお世話になった地域に学校や病院、橋を作ったりする風土・気質がありました。
今の滋賀県でも、自分たちの地域を良くしようと思う人たちが多く、様々な活動もつながりやすく、活性しやすいと感じています。滋賀県のNPOは小規模な地域レベルの団体が多いのですが、企業の大半は環境で頑張らないと滋賀ではやっていけないと感じていると思います。滋賀県の豊かな水、自然と再生可能エネルギー、そこから生まれる産品は、どれも自然環境に配慮されていて、持続可能なものばかりであってほしい。そうしたイメージから滋賀県産品が、Made in Shigaとしてブランド化されると良いと願っています。」
聞き手「滋賀と京都で、協働キャンペーンなどできたらいいですね。今日は本当にありがとうございました。」
以上