「琵琶湖・淀川流域」のはなし ~琵琶湖がもたらす水の恵み~
「琵琶湖・淀川流域」とは?
□リーフ茶を淹れるのに必要なものといえば,何でしょうか? 茶葉,茶器,ゆとりあるひと時・・・そして,忘れてならないのが「水」です。
□すでにご存じかと思いますが,京都市民が使っている水の大部分は,お隣の滋賀県にある琵琶湖から,琵琶湖疏水(そすい)を伝ってやってきたものです。そして,これまたご存じの通り,琵琶湖の水は瀬田川・宇治川経由でも京都方面にやってきますし,その宇治川は桂川・木津川と京都・大阪府境あたりで三川合流し,淀川となって大阪湾へと注ぎ込みます(図)。これらの河川およびその集水域を合わせたエリアは,「琵琶湖・淀川流域」と呼ばれています。その給水区域は広く大阪・兵庫にまで及び,給水人口は約1700万人を数えるなど,日本でも有数の規模を誇る流域圏です。
□本エッセイでは,琵琶湖・淀川流域における直近の諸課題のうち,水利用に係るテーマのいくつかを,ごくかいつまんで紹介したいと思います。
□図:琵琶湖・淀川流域圏(流域界と給水区域)
□出典:琵琶湖・淀川水質保全機構ホームページより引用
「琵琶湖・淀川流域」の水利用と京都
□琵琶湖の富栄養化や赤潮・アオコの話は昔ほど聞かなくなったし,琵琶湖の水質の心配はもうしなくてよいのではないか? そして,琵琶湖という日本一大きな湖が水源なのだから,渇水の心配も要らないのではないか?・・・そのように考える京都市民は,少なくないように思います――そもそも考えたことすらない,という方もいるかもしれませんが――。しかし以下述べるように,事態は決して楽観視できません。
□まず,水質の問題から見てみましょう。全国的に見て厳しい排出規制や下水道の整備・普及が功を奏してか,琵琶湖の水質はかつてと比べれば確かに改善しています。しかし他方で,CОD(化学的酸素要求量)という水質指標の値は,あまり下がっていません。その原因の1つは,難分解性有機物と呼ばれる物質の増加です。上水道施設での塩素消毒過程でトリハロメタンの生成可能性を高めるなど,実は京都市民も無関心ではいられない問題なのです――しかし残念ながら,琵琶湖の難分解性有機物の由来や生成メカニズムはまだよく分かっていません――。あるいは,原子力発電所の問題も,琵琶湖の水質と大いに関連があります。もし万が一,近隣の福井県に立地する原発で大事故が発生すれば,放射性物質が琵琶湖とその流域を汚染する可能性があるからです。
□次に,水量の問題をとりあげましょう。まず懸念されるのは,気候変動の進展にともなう渇水リスクの増大です。確かに琵琶湖の集水域は広大であり,その流域面積は琵琶湖・淀川流域全体のおよそ半分を占めるほどですので,そのエリア全てで何日も降雨がない,という状況はなかなか考えづらいかもしれません。しかし気候変動の将来影響は不確実性が高いので,リスクへの備えはやはり必要でしょう。あるいは,災害リスクの存在も忘れてはなりません。琵琶湖疏水の付近には琵琶湖西岸断層帯と呼ばれる活断層があり,もしそこで大規模地震が発生して琵琶湖疏水が寸断されれば,市民生活に重大な影響を及ぼすからです。さらには,上水道施設をはじめとする水インフラの老朽化の進行も,今後の水利用を大きく左右する問題です。水インフラ更新の際は,「人口減少と少子高齢化」「厳しい財政制約」「産業構造の変化」といった現実をふまえることはもちろん,さらに「災害に強くレジリエントなシステム」「徹底的な省エネ」「地域の水循環との調和」といった視点も埋め込むべきでしょう。50年先・100年先を見据えた水インフラのあり方とその費用負担について,全市的な議論と合意形成が急務になっています。
おわりに
□最近つくづく感じるのは,水は社会を映す鏡だということです。水の変化の背後には,必ず社会の変化が潜んでいます。その眼差しを忘れてはならない,と本エッセイを執筆しながら改めて感じた次第です。
□最後に3点だけ情報提供して,本エッセイを結びます。第1に,琵琶湖のことをもっと知りたくなったという方は,是非一度,滋賀県立琵琶湖博物館(滋賀県草津市)を訪ねてみてください。第2に,紙幅の関係で断念せざるを得ないのですが,京都の水利用を考える場合,本当であれば地下水の問題を取りあげたいところです。興味がある方は,カッパ研究会編(2013)『京の水案内』(京都新聞出版センター)をご覧ください。第3に,グローバル化が進んだ現代社会では,グローバルな視点を抜きにして水利用の真の姿をとらえることはできません。とりわけ重要なのが「バーチャル・ウォーター(仮想水)」という概念なのですが,その詳しい解説としては,さしあたり沖大幹(2012)『水危機 ほんとうの話』(新潮社)を挙げておきます。
(2017年9月2日公開)