漫画「お茶の時間」に込めた思い
イギリスの漫画展で人気を博した「お茶の時間」
イギリスで漫画展を開催したとき,「お茶の時間」という漫画を出展してみました。当初は,日本のお茶の飲み方などイギリスの人には理解しにくいのではと思っていたのですが,意外にも,この漫画が人気を博しました。
万国それぞれに大切な「お茶の時間」
何故かなあ?と考えてみて,「はっ」と気が付きました。実は,イギリスには古くから「午後の紅茶(アフターヌーン・ティ)」という慣習があって,軽食や菓子と共に紅茶を飲みながら語り合うのが日常的な生活スタイルとして定着していたのです。ところが,最近は忙しいので,なかなか「お茶の時間」が取れない状況になり,反省を込めて,またある種のノスタルジーでこの漫画に共感を覚えてくれたのではないかと思えたのです。
イギリスだけでなく,どの国,民族にも伝統的な「お茶の時間」の風習があります。日本の場合は,単なるお茶を飲む時間を,抹茶で客人をもてなすセレモニーから発展させて,いわゆる茶道,茶の湯文化として総合芸術の域まで昇華させています。高尚な茶道の話は,ともかくとして,少なくともお茶を楽しむ文化は大切にしたいものです。
「お茶の時間」の短縮により増大する環境負荷
ところが,この漫画に見られるように,多くの人が手軽にお茶を飲むことを優先させて,どんどんお茶の時間は短縮される傾向にあります。ここで,漫画が伝えたい重要なメッセージは,時間は短縮されたが,その結果環境負荷は増大しているという点です。
すなわち,ティーバッグの出現で便利になったが,使い捨て商品が増え,ポットも必要になりました。さらに,自動販売機によるペットボトル入りのお茶では,使い捨ての飲料容器のペットボトルに加えて,夏はコールド,冬はホットに保つ自販機の消費エネルギーは莫大です。このように,私たちの生活に利便性をもたらす仕組みの裏には,必ず資源やエネルギーの浪費があります。
私たちは「あ~,便利になった」と単純に喜ぶだけでなく,そのためにいかに資源やエネルギーが使われているかを考える必要があります。
「お茶の時間」がもたらす豊かさ,文化,人の和
お茶の時間の漫画でもう一つ伝えたいメッセージは,お茶の時間がもたらす文化的要素です。昔から,人々はお茶を飲みながらコミュニケーションを楽しんできたのです。ところが,今では,お茶を飲む行為のみを重視して,会話などなく,ただひたすらお茶飲料を飲んでいます。まるで「熱中症対策」のためのお茶のようです。
本来,お茶の時間は,仕事の合間にお茶を入れながら,日常生活のこと,世の中の動きなど様々な意見交換をする場として機能してきたのです。また,お茶の入れ方自体も工夫がなされ,添えられるお菓子や器にも話題が及び,一種の文化サロン的雰囲気を提供してきました。
どうか,皆さんもお茶の時間を通して,環境や文化の視点で私たちのライフスタイルを見直していただければ幸いです。(2016年10月24日公開)