「コロナ共生社会のライフスタイルは京都から」京都大学浅利美鈴准教授インタビュー「動画あり」

浅利美鈴さんにインタビューしました。

プラスチックとの付き合い方だけでなく、湧き出るアイデア、突破力、実行力、折れない心の持ち方までうかがいました。

 話し手 京都大学大学院地球環境学堂 准教授 浅利美鈴さん
日 時:202092日(水)14時から
場 所:京都大学学内(Zoomにて取材)
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘
(記録:くうのるくらすの創造舎 南村多津恵)

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今日はこんなことをお聞きします

聞き手:

浅利さんのすごいところは「肩書」だけでなく、経歴や活動歴にあります。
学生のうちから、「京大ごみ部」を作ってまわりの学生たちと活動し、その筋の研究者になられました。
研究者になっても次々とアイデアが湧き出て、おもしろい活動を実現されています。
さらに、学内や市民団体だけでなく、企業や行政も巻き込んで発展させています。「エコ〜るど京大」「びっくり!エコ100選」「3R・低炭素社会検定」「びっくりエコ発電所」など。
そのうえ各地で災害が起きれば被災現場に飛んでいくという、災害ごみの研究家でもいらっしゃいます。
学内外を巻き込んで展開する「エコ〜るど京大」の中で、「京都大学プラ・イド革命」「#かばんのなかのプラ」「京大プラへらす宣言」、今どんなプラスチックを私たちは使っているのかということをチャートに表してみるとか、いろいろなおもしろい活動が展開されています。

今回は中でも特に、プラスチックの削減活動について三つお伺いします。

1 こういった興味深い活動はどのように生まれてプロジェクトに発展したのか。


2 便利なプラスチックとこれからどのようにつきあっていくべきか、考え、行動するヒント。

3 こういった成果をどのように学外や地域、社会に広めていこうとされているか。

個々の小さな実践が、持続可能な社会の実現につながっていくということが実感できて、SDGsを身近に感じる人が増えたらいいと思っています。よろしくお願いします。 

おもしろいプロジェクトはどのように生まれるのでしょうか

浅利さん:

一つ目の質問について。学生さんと一緒に「京大プラ・イド革命」プロジェクトを実施しています。私たちの暮らしはプラスチックに依存しすぎています。プラスチックを同定、アイデンティフィケーション(同一化、帰属意識)して、いかに持続可能な関係性をつくっていくかという活動です。
まず、私の研究室の案内をしながら見ていきます。京都大学の時計台から東に少し行ったところ、吉田神社の山裾にあります。北側の窓からは比叡山が見えます。送り火の五山のうち三つはここからきれいに見えます。吉田山は向こう側の窓から見えます。
京都大学での環境問題への取り組みについては、「エコ〜るど京大」という名前で学生さんと一緒に2013年から7年ぐらい活動してきました。プラスチックについて勉強しようと言い出したのは去年2019年の春ぐらいです。5月に環境省がプラスチック循環戦略を打ち出しました。背景は6月のブルー・オーシャン・サミット(G20大阪サミット)です。そのサミットの前日に京大ではSDGsシンポジウムが開催されました。サミットでプラスチック問題が大きく取り上げられる予定だったので、それを私たちの取り組みのマイルストーンにしようと決めたのが、今の一連の活動につながっています。
勉強したのは、まず、プラスチックとは若い素材でこの100年足らずでぐっと生産量が増えたものであることです。日本と世界では状況が違いますが、世界的に見るとプラスチック包装のリサイクル回収はたった14%だけです。一番の問題は、どこに行っているか不明な、自然環境に放出されている可能性のあるものがなんと三分の一もあるということです。ゆくゆくは海洋ごみとなります。ウミガメにストローが刺さっているニュースは皆さんもご存じだと思います。私のフィールドのソロモン諸島では、海岸にプラスチックごみが集積されています。最初に行ったときは漂着ごみかと思いました。しかし、海から漂着したごみではなくて、まちの人たちが投げ捨てたものが放置され、雨で流されて溜まったのでした。そんな世界的な背景を受けて勉強を始めました。
最初はペットボトルやレジ袋の削減をすればいいのではと思っていました。でも、エコ〜るどに集まったメンバーには環境系以外の学生もいれば、プラスチックを研究する工業系の学生もいて温度差がかなりあり、減らせばそれでいいのか?と思うようになりました。一口にプラスチックと言ってもPP(ポリプロピレン)やその他いろいろな素材があることを知らない文系の学生もいますが、そういう人は反対に経済学には強くて消費者の行動原理に詳しいということもあります。今すぐプラスチックから卒業はできないし、エッセンシャルユース(削減の難しい使い道)もある。消費者の理解をもっと深める必要があるということに数カ月で到達しました。
そこで作ったのが「京大式プラ・イドチャート」。プラスチックを4つの四象限に分けて、横軸に消費者が要ると思うかどうか、縦軸に避けられるか避けられないか、で分類します。要るし避けられないものはバイオプラスチックなど素材の工夫をする、逆のものはなくせばいい。これは学生さんが中心に考案してくれました。調査で分類を明らかにして、今後の方策へつなげます。今ではこれはいろんなところで調査に使っていただいているし、私も研究として展開していきたいと思います。
なぜこんなものを生んだかというと、私自身が研究者として当たり前と思いがちな、たとえば「プラスチックは減らさないといけない」ということ、それが問題を全然知らない人とはその前提から共有しなければいけないと気づきました。

いろんな人を巻き込んだはりますね

聞き手:

そういった研究に周りの人をどうやって巻き込んだのでしょうか。浅利研究室には学外の人、たとえば企業や行政の人もいますね。接点を持つことはできても、同じ方向を向いてもらうのは難しいのではありませんか。秘訣を教えてください。

浅利さん:

プラスチックだけではなく、SDGsなどの切り口によってですね。こちらの部屋の二人はリコーさんから出向で来られています。SDGsをいかに京都で社会実装するかということについて、今10社ぐらいとコンソーシアムを作って研究をしています。イベントを含めると数百社と接点をもっています。最近感じるのは、社会貢献を超えた環境配慮、持続可能な経営をしなければならないという段階に企業も来ています。20年前から続けている「びっくりエコ100選」では、当初の社会貢献、メセナから、ここ数年は企業の生死をかけて製品やサービスを変えていこうといううねりになっています。企業の方がうちの研究室に来てくださるのは、これまでつくってきたつながりが大きかったと感じています。環境系や廃棄物系の研究者はメーカーなど上流の人を糾弾しがちですが、私自身が一消費者としてビギナーと一緒に進化することを目指していて、ゼロから一緒に始めようというところに共感いただいているのではと思います。
それと、企業の方の話を聞くと、普通の消費者、特に若い世代と一緒に活動できることに意義を感じられています。ネット社会、オンライン社会になってから若者の存在感が大きくなっているんです。学生は大学の資産でもあります。学生にとってもいろんな大人や会社に接するのは、人生において有意義ではと思っています。京大に来るような学生さんは恵まれた家庭に育っている子が多いですけど、昔は親戚づきあいなどで中には変な人もいました。企業には、そんなに変な人というのはいませんがいろんな人はいます。そういう中でブレイクスルーのできる環境をつくっていきたいなと思っています。

聞き手:

研究室に来られている企業さんにもインタビューしてみたいですね。

浅利さん:

皆さん、濃い方々なので、こちらも学ばせてもらっています。

浅利研究室の学生さんたちのパワー・発想力の源は

聞き手:

浅利研究室にはおもしろい学生さんもいらっしゃいますね。なんでも鴨川の河川敷に生息するカピバラを捕まえて食べた子とか? 先生から課題を与えられてこなすだけでなく、関心を広げていく人がいて興味深いです。そのエネルギーは京都大学に共通するものなのか、それとも浅利さんの研究室に特異なものなんですか?

浅利さん:

京都大学には入学時からユニークな子がいるのは間違いありません。それをいかにキープしていけるかは人によって違います。私の周りには比較的そういう人が多いのは、一つにはキープする環境を保持していこうという努力もありますが、留学生が多いのもあるでしょう。日本社会は画一的ですが、留学生は文化も違うし考え方も違います。理解してもらうためには多様性を大切にしつつ、相手を理解する心が必要になります。いい意味でも悪い意味でも個性を活かし、互いに尊重するようにはできているかなと思います。

聞き手:

いつも研究室に学生がたむろして化学反応が起こっているかのようです。研究室でのパーティはどんな頻度でされているんですか?

浅利さん

コロナ流行前は週に1回はやっていました。学生さんの集まるのは放課後になるので、炊き出しをして食べてから活動を始めるとかね。コロナ後も、ここは家ということにしています。みんなで集まれるように京北町から長い机がやってきました。キッチンスペースもちゃんとあるんですよ。

聞き手:

進化していますね。それだけ先生が慕われているのですね。

浅利さん

私は大学から1回も出ていないんです。だから、学生たちは弟や妹が入ってきたという感覚なんですが、気づいたら親ぐらいの年になっていました(笑)。

これからのプラスチックとのつきあい方

聞き手:

いやいや、いつまでもお姉さんです。先ほどのプラ・イドチャートで説明がありましたが、我々はプラスチックとどう付き合えばいいのでしょうか。

浅利さん

一番難しい質問です。答えは今はありません。私はかなり徹底してプラスチックのないものを選んだ暮らしをしてはいても、ゼロにはできません。バイオマス由来のプラスチックに置き換えるのは一つの政策の柱ですが、その開発は自分たちにはいかようもしがたいです。消費者はどうすればいいか、エッセンシャルユースをどう減らすか。欧米、特にヨーロッパにしばらく滞在してから日本に戻ると、プラスチックが本当に多いと肌感覚で思います。今はコロナ禍で少し違うとは思いますが、レストランや食品を扱うところでは日本ほど包装が過剰ではないし、天然素材で包まれている方がおいしそうに見えるという、文化的な違いがあります。
日本でできるのは過剰なものを減らすこと、要らなくて代替品があるものは減らすこと。しかし、買い物しようとすればそもそもプラスチックに包まれているものも多いと思います。どれぐらいのものが必要ないかを数値で表し、それを企業に伝えていくということをちゃんとしたいと考えています。今、レジ袋は8割の人が要らない、避けることができると答えるから、ほぼなくなっていくと思います。今は辞退率8割ぐらいですが、9割にもっていけるでしょう。
この機会に追随してなくせるものは何か。ストローやカトラリー、使い捨てのおしぼり、傘袋などは、消費者の方も要らないということが多いですね。
一方で意見の分かれるものもあります。要る要らない、避けられる避けられないが半々になるものです。ここには、要らない方へ引っ張る啓発の余地があると思っています。啓発で変えられるものはたくさんあるはずです。プラスチックというものが一個あるというより、個別の製品に目を向けて減らす段階に来ています。個々人がどう取り組んでいくのかということについては、プラスチックマイレージみたいなものを考えてみたいですね。一人が生涯で使える石油由来のものの量が決まっていたらどう配分するか。たとえば子どもの頃や歳を取ったらおむつを使う、じゃあ若いときには控えようとか、私はこれはどうしても必要、なら他でどう減らすかというような、そういった采配を取り入れてみて、それを可視化していくことはできないかと考えています。

聞き手:

プラ・イドチャートは断舎利の考え方に似ていますね。要るけど使わない、使わないけど必要、というようにマスを分けていくところが。プラスチックとの付き合い方は人によって違います。たとえば不織布のマスクもプラスチックです。私はこれなら減らせるというものを見つけるのが大事で、その価値観が問われる社会ですよね。

浅利さん:

おっしゃるとおりだと思います。

学外へ活動を広めよう

聞き手:

これらの活動を学外、地域や社会にどう広めようとしているのでしょうか。

浅利さん:

人から人へと伝えることしか人の変容は生まれないと考えています。そんなことを言ったら工学部を卒業した人間としては失格かもしれませんけど。社会の受け皿を変えたり材質を変えたりも大事ですが、私自身は、その開発者を生みたいと思っています。それには環境教育です。どれだけ多くの人にお会いしてどれだけ変えることができるかが私の人生のテーマです。最近ではプラスチック問題やSDGsを勉強したいと、幼稚園からもシニアからも幅広く依頼が来ます。できるだけ出かけていって、取り組みをスタートできるように支援しています。小学校や高校で講座をしたり。そこで接する生徒や先生方の姿勢から元気をもらっています。山科区の安朱(あんしゅ)小学校では校長先生や担当の先生、生徒さんと一緒にSDGsの学びの場をつくり、地域の改善につなげました。人や子どもや教育がまちのあり方を変えることができるんだなと感動して、そんなモデルをこれからも模索したいと思います。

がんばっても何も変わらへんやん、という人もいますね

聞き手:

そういった活動の半ばで、がんばっても何も変わらないと心が折れた人もいっぱいいますよね。活動することによって、ちょっとずつ理想に向かって変わっていくという実感はありますか?

浅利さん:

そうですね。コロナ禍で大変な想いをされている方には本当に心が痛みますが、コロナ禍で突きつけられたことは、私たちがやろうとしたことを何倍も早めてくれると考えています。これまで隠れていた問題を露呈させるという意味もあります。一極集中の大量生産・大量廃棄の社会へのアンチテーゼにもなりうるものです。また、心のあり方というか(逆に、オンライン寄りになりすぎて心が弱っている人を認識できているのかなというところが今後の課題にはなるかと思いますが)、こんなときに、物との付き合い方だけでなく人との付き合い方を含めた、豊かな暮らし、つまり人を持続させるための要素はなんなのかなと考える機会になりました。コロナ禍で変革は誰にとっても他人事ではなくなりました。これをチャンスにしなければなりません。静かなムーブメントとして、これまで動いてきたものがいい方向に進む可能性を感じます。

聞き手:

コロナ禍で、自分たち環境活動を実践してきた者がやろうとしていたことが何倍も早く実現するかもしれないということですね、勇気づけられます。

浅利さん:

オンラインで、国境や年代も越えてお話することが増えました。やってもやっても変わらないという無力感は誰しも思いがちで、京大ごみ部の時代には私も感じました。でも、京都高度技術研究所アステム(ASTEM)の理事長の西本清一先生から、「みんなを変えようというのは贅沢すぎる、一人でも何か変えられたら大成功だ」と言っていただいて肩の荷が下り、無力感から逃れることができました。100人相手の授業でも、うんうんと聞いてくれる人は一人か二人です。でも、誰かにひとつでも伝わればと思います。それでも回り回っていろんなところでつながってくることを実感するようになりました。
最近は、いろんなプロジェクトでお会いする人から、「実は先生の授業を受けていました」と言われることがあります。授業をした小学校からのお礼の手紙を見ると、「学校ではわからないことを教えてもらった」など、いろんな反応があってうれしくなります。自分が楽しくやることが大事で、その中で一人でも一緒に楽しんでくれたり、何かが伝われば大成功だと思って続けていければいいのではないでしょうか。
それと、京都でSDGsをキーワードに活動していると、持続可能性ということについて考えます。「持続可能にする」ことの目的があるんですね。その「何を持続させるべきか」は人によって定義が違います。でも京都にいると、目的を持っていなかったけど「1000年前からあるからなんか知らんけど継承している」というものがあります。そこの線引き、違いは何だろうと考えるとおもしろく、京都を見る目が変わります。継承してきたからには何かの理由があって、そこの芯のようなものを守りながらやってきている、その芯がこれから環境分野にも通っていくのかなということを、なんとなく体感しているところです。ですから、今後の京都の持続や継承にも注目いただきたいと思っています。

いろんな方向に進む人がいますよね

聞き手(記録係):

コロナをきっかけに社会がいい方向に変わりつつあると思う一方、逆への動きも感じています。みんな我慢を強いられているので、逆にこれぐらいは許されるだろうと、出すごみが増えてしまったり、公共交通からマイカーへと乗り換えてしまったり。二極化していると思うのですが、それについてはどう思われますか。

浅利さん:

たしかにそういう環境負荷が高まる動きもあり、それを制御することは難しいと思います。ただ、相対的に見れば、典型的なことで言うと、里山と都市のあり方が変わればそんなにクルマで毎日通勤する必要はありません。こんな変革のタイミングはそうはありません。その変化の大きさの方が強いでしょう。全員が里山に移動するというわけではなくても、日本中がうまくバランスを取って、新しい経済が根付いて、回していけたらと思います。

聞き手(記録係):

もう一つ。私のまわりにも行動したいと考えている学生さんが何人もいます。でも、普通は何かやりたいと思っても、どうしていいかわからないとか、自分一人ではできないとか思って、何もできずにいる人が多いものだと思います。そんな人たちにアドバイスをお願いします。

浅利さん:

これまで消費者は非力と思われてきましたが、最近はずいぶん変わってきていると思います。ネットの力が大きくなり、グレタ・トゥーンベリさんのような存在もいます。一人からでも動かせるという考えが生まれてきていると思います。その流れをどう作っていくか。最近は固定されたメディアはなくなっています。最終的に何をよりどころに情報を判断するか、行動するかは、一人ひとりのリテラシーが問われることです。今はどんな立場であっても、一人ひとりの消費行動が社会を変えるための影響を持ちえることを実感できるようになってきている時代でしょう。そのように考えますし、そういうふうに持って行かなければと思っています。

聞き手(記録係):

現実にいま起こっていることをちゃんと見ればいいということですね。

浅利さん:

ええ、情報はたくさんありますし、正解は一つではありません。最終的には主観で判断することになりますが、それは経験や知識に基づいた判断になります。その土台がいかにしっかりしているか、その主観を共有することで、変えていける社会になってきているのではと思いますね。

聞き手:

私も京大の地球環境学堂で勉強したいと思いました。
本日はありがとうございました。

以上

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