天神祭ごみゼロ大作戦の経験から見えること
話し手 大阪産業大学 デザイン工学部 准教授,天神祭ごみゼロ大作戦 実行委員長 花嶋温子さん
日 時:2019年8月7日(水)15時から
聞き手:京都市ごみ減量推進会議職員 堀 孝弘,龍谷大学政策学研究科 趙 迪
場 所:574-8530 大阪府大東市中垣内3-1-1 大阪産業大学16号棟415号室 花嶋研究室
大阪産業大学 花嶋温子さんへのインタビュー
・天神祭ごみゼロ大作戦の実行委員長として活躍
今回登場していただくのは、大阪産業大学 デザイン工学部 准教授の花嶋温子さんです。花嶋さんは大学の教員だけでなく、2017年から天神祭ごみゼロ大作戦の実行委員長を務めてらっしゃいます。それだけでなく、今年(2019年)6月まで3R・低炭素社会検定の実行委員長を、また廃棄物資源循環学会環境学習施設研究部会の副部会長も務めてらっしゃいます。
今日は主に、天神祭ごみゼロ大作戦の実行委員長としての経験を中心に、お話を伺いました。
聞き手からの問題提起「環境教育は失敗したんじゃないの?」
聞き手(堀)「8月25日の環境教育学会の第30回大会で、花嶋さんと堀は発表が連番ですね。『ごみ問題』という枠ですが、今廃プラ、海ごみなど大変な問題になっているのに、大会プログラムを見ると、このテーマで研究発表する人が堀以外に見当たりませんでした。
これまで小学校で『分別・リサイクルの大切さ』は取り上げても、そこで止まってしまって、その先に大きな社会問題が発生しているのに、誰も取り上げないってどうなんだろうと感じました。学会をあげて『環境教育って失敗したんじないの?』ぐらいの振り返りがあってもいいぐらいに思うのですが、どう思われますか。」
花嶋「環境教育がやっとここまでできたことの評価も大切だと思います。分別・リサイクルにしても、社会に根付かせるまで長い時間が必要でした。今中国の上海市では3万人の指導員が、ごみ分別を市民に周知・徹底しようとしていますが、私たちにとってはあたり前のことが驚くほど大変なようです。多くの人に伝えるのはとても大変なことなのです。
日本では長い時感をかけて学校で粛々と分別・リサイクルの周知を進めてきました。国全体の環境教育を変えるのは時間がかかります。小中学校の先生に全てをまかせるのではなく、自治体も関与してしっかりと方向を定めてほしいところです。また、ごみ処理施設に付設された環境教育施設に大きく期待したいのですが、こちらも素晴らしいところから、そうでもないところまで、さまざまです。だからこそ、連携してレベルアップしてほしい。
天神祭ごみゼロ大作戦から見えたこと 活動継続の難しさ
聞き手(堀)「話題を天神祭ごみゼロ大作戦に変えましょう。」
花嶋「天神祭ごみゼロ大作戦は今年で3年目を迎えます。祭りのエリアはとても広いので、1年目は天満南公園周辺だけで実施し、2年目から大川沿いへと発展させました。リユース食器については様々なイベントなどで活用されるようになりました。小さな規模のイベントでの成功例は各所で出ているのですが、それが100万人規模の天神祭にはなかなか応用できません。
聞き手(堀)「どんなご苦労がありますか。」
花嶋「なにせエリアが広く、多くの人が来ます。露天商も全国からこの時のために集まってきます。ボランティアも大勢必要なのに、お金がない。今年は特に実行委員会の体制が整備できなかった。最終的には大阪メトロさんがスポンサーになってくれて、どうにか体制を整えることができました。毎年同じことを続けていくことにも意義があるのに、常に新しい取組が求められます。何が新しいかを問われます。
京都の祇園祭ごみゼロ大作戦は一般社団法人になりましたが、大阪の天神祭ごみゼロ大作戦はまだ実行委員会形式です。だから、毎年資金ゼロからスタートする必要があります、そこが大変です。ボランティアもスポンサーも、毎年違う人や企業が集いますが、「使い捨てはよくない」という機運や理解は確実に高まっています。高校生や企業や労働組合の参加も増えています。多くの人がボランティアとして参加してくれますが、そうすると事務局の作業も増えます。1,500人ものボランティアに何時にどこに来てもらうかを連絡し、必要な物品を揃え、Tシャツなどはサイズも確認しないといけません。ところがこういった活動での人件費への理解がまだまだ低い。事務局に対しても、「ボランティアでやるべきではないか」とか、「環境の活動をやっているのに、給料をもらうのか」といった声をあげる人もいます。
今年財政的に厳しかった理由の一つは、大阪市市民局による市民協働の助成金が3年限りだったので、事前調査、1年目、2年目といただいていた100万円がなくなったこともあります。
若者の反応
聞き手「今回お尋ねしたいことの一つに、若者の反応はどうだったか、活動のなかで『成長したなぁ』『意識や行動が変わってきたなぁ』と感じられたことはありますか。」
花嶋「変わったのかどうか正確にはわかりません、もともと意識や関心が高かったのかもしれませんが、想像以上に頑張る若者が多いように思います。普段はなるべく疲れないように省エネルギーで楽に暮らしている若者が、暑い中で汗をかきながら懸命に頑張る姿は魅力的でした。また、年輩の方と若者とが上手にタッグをくんで動いている姿もみかけました。どちらがコミュニケーション上手なのか両方上手だったのかわかりませんが、見ず知らずの異年齢の組合せが仲良く働いているのも不思議であり、魅力的でした。」
官と民の協力はうまくいっているの?
聞き手(堀)「ごみ減量成果をあげているのですから、環境局の支援はないのですか。パンフレットを見せてもらうと、廃棄物が13.8トン減。分別回収量が4倍。リユース食器にしても17,000食分使用されていますから、それだけ使い捨てプラ食器も削減できたわけですね。さらに、リユース食器の返却率も2年目(2017年)の76.1%から3年目(2018年)は92.9%に向上しています。いずれも大きな成果をあげてらっしゃいますね。」
花嶋「環境局からはありません。」
聞き手(堀)「大阪市の『身を切る改革』のあおりを受けている感じですね。」
花嶋「切るどころか、そもそもありません。」
聞き手(趙)「官と民の連携として、どこまで進めば効果があったと言えるのでしょうか。効果はどのように評価したらよいでしょうか。」
花嶋「うまくいっている事例は少ないと思います。一時的にうまくいったように見えても、担当者次第。人が変わるとダメになる場合がほとんどですね。仕組みとして『成功した』と言えるような事例はなさそうです。天神祭ごみゼロ大作戦の場合は、企業も含めた民ががんばっています。官は応援はしてくれますが、お金は出してくれません。
ただ、天神祭ごみゼロ大作戦が3年続いたことで、堺市や東大阪市がこのような取組に関心を示してくれています。問合せがある時には、『立ち上げにお金も出してあげてね』と言っています。天神祭ごみゼロ大作戦も、もう少しお金があれば段ボール箱でなく、リユースできるごみ箱を使うことができます。」
残った課題など
聞き手(堀)「露天商さんの協力はどうですか。全国から集まってくるので、リユース食器等に理解してくれますか。」
花嶋「協力的になっていますよ。ただし日本一露店が出る祭が天神祭です。露店の売れ残り食材やトロ箱といったごみの減量には、私たちもまだ手を付けていません。
一般の来場者の理解は広がっていると思います。一方で、「ごみ箱をもっと多く設置しろ」という声もあります。ごみゼロ大作戦に取り組む中で、ボランティアの配置ができる場所に限定したごみ箱の設置をしましたので、以前より設置数が減ったためです。」
聞き手(堀)「プラスチックの削減という点で、何か特徴的な取組はありましたか」
花嶋「今年は、回収したペットボトルがどんなメーカーの何という製品か、ラベルのバーコードを1000本ほど調べました。まだ集計中で詳細な結果は出ていませんが、露天で販売されたとみられるペットボトルだけでなく、種類の多さは当初の想像を絶するほどです。量的なバランスはわかりませんが、コンビニやドラッグストアや大学生協のシールの貼られたものや、ホテルでの無料配布の水など、露店商が売ったもの以外も多いです。ペットボトルは持ち運ばれるのです。だから、その場で売る人だけでなくそもそも作った人や買って捨てる人にももっと責任を求めなければいけません。」
産廃プラごみの自治体による焼却について
聞き手(堀)「天神祭から話が変わるのですが、今年(2019年)5月環境省が全国の市町村に対し、各地で行き場を失いストックされている産廃系プラごみについて『市町村の焼却施設で焼却してほしい』旨要請しましたが、市町村側の反応でご存知のことがあれば教えてください。」
花嶋「市町村のいくつかは焼却を断ったと聞いています。行政としては施設周辺住民との関係もあり新しいことはしたくないという思いがあるのでしょう。ただ関東ではプラスチックをストックしていた施設で火事が起きるなどの問題も発生しています。あくまで緊急避難ですが、各地で溜まってしまっているプラごみを自治体の施設で焼却するのは必要な措置だと思います。」
聞き手(堀)「プラスチックは分別回収してリサイクルするより、燃やして熱エネルギーの回収や、その熱で発電した方が合理的だ、という考えがありますか。この点、どう思われますか。」
花嶋「『サーマルリサイクルしているからいい』と使い捨てが進むのは絶対に容認できませんが、出てしまったものでリサイクルに適さないものは焼却してエネルギー回収もやむなしだと思います。むしろ、環境中に拡散しないようにするべきです。
そもそもプラスチックの製造に使われる原油は、全体のごく一部です。輸送や発電などに使われるものが圧倒的に多く、そちらを減らしていくことが重要です。目に見える部分としての『ごみの削減』の取組は重要ですが、社会全体として力を入れるべきは、化石エネルギー消費の削減です。
ごみの分別も細かくやりすぎるとしんどくなります。分別だけでなく削減についても同様です。ペットボトルを減らしていくことも、特に今年のような酷暑のなか、熱中症への対策などといった利便性も活かしながら考えていく必要があると思います。」
聞き手(堀・趙)「今日は様々な経験をお話いただき、ありがとうございました。」
以上